多汗症治療について
3月に入り急に暖かくなり春の訪れがうれしくなります。
4月の新生活に向けて、そしてマスクオフにむけてニキビの患者さんも増えてきた気がします。マスクは自由の新生活、久しぶりの少し解放感のある春です。
最近初夏に向けて腋窩多汗症のウェブ講演会も増えてきました。また先月号の日本皮膚科学会誌には治療ガイドラインが掲載されています。
腋窩のみでなく、手のひら・足の裏の多汗・顔の多汗など悩みは人それぞれですがそれぞれ気にしながら生活するとQOLが下がります。皮膚科で治療や指導ができる範囲も増えましたので他の受診のついでに相談を受けることも増えています。
エクリン汗腺は汗を出すことにより体温調節を行うほか、皮膚の表面に湿度をもたらす、そして汗の中の抗菌タンパクによる自然免疫作用により細菌・ウイルスから守る作用もあり、汗をかくことは重要なことと考えられています。ですが、頭・顔・手のひら・足の裏・腋窩に、温熱や精神性の負荷により大量の汗がおこり、日常生活に支障をきたす状態を、原発性局所多汗症といいます。
多汗症の患者さんの汗腺の数や大きさは変化がないことから、汗腺の発汗機能の亢進と考えられます。
まず、手のひら・足の裏の発汗は温熱刺激には反応せず、恐怖・痛み・不安などの精神的負荷により誘発される精神性発汗です。脳の中の精神性発汗中枢へ入る刺激に対し、病的に多量の発汗が持続的に生じる場合に原発性の掌蹠多汗症と診断されます。掌蹠の多汗症は若い青年期までに発症し、多くは多汗症の家族歴があることから、遺伝的に生じた交感神経(発汗系)の病的な過活動と考えられています。
つぎに、頭と顔の発汗の生理的意義は、高温に弱い脳を守るための"脳の冷却”であり、温熱により出る頭・顔の汗は体温調節性の発汗です。ほかの全身に比べて発汗の閾値が低いため、体では汗が出ないような低体温でも頭部の発汗が始まることがあります。
加えて緊張が強い時も頭・顔に発汗することがあり精神性発汗と考えられます。この時、低体温で発汗するため "冷や汗”といわれます。
"冷や汗”は他にも発汗閾値の低い腋窩にも生じますが、精神活動の亢進した脳を冷却するための発汗と考えられます。
頭部・顔の発汗は緊張など精神的負荷に対し反射的に病的に多量発汗が生じることがあり、持続的に数時間続くことがあり、頭部顔面多汗症と診断されます。また、頭と顔はトウガラシに含まれる辛み成分"カプサイシン”が温度感受性のレセプターを刺激して発汗が生じる部位です。(味覚性発汗)
腋窩は温熱による発汗が生じる温熱性発汗が主体ですが、ほかの部位に比べて汗の出始める体温の閾値は最も低いため、体が発汗しない低い体温でも発汗が生じることが特徴です。
低い体温で早めから発汗が生じること、腋窩は蒸れる部位で汗が蒸発しにくいこと、により少しの汗でも多汗症と認識されやすい部位です。
腋窩は精神性刺激でも発汗しますがほかの体の部位でも生じる現象です。この精神的負荷に過剰に反応し、病的に持続的な発汗が出現する場合にも腋窩多汗症と診断されます。精神的発汗と温熱性発汗が共存する腋窩では、洋服に汗の影響が出やすく、市販の制汗剤など衛生用品の年間コストは国内245億円と言われています。
多汗症の診断として
①発症が25歳以下であること
②左右対称性に発汗すること
③睡眠中は発汗が止まっていること
④1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
⑤家族歴があること
⑥日常生活に支障をきたすこと
の6症状のうち2項目以上当てはまり、症状が6か月以上認められる場合を多汗症と診断しています。
この2~3年で新しい治療も多汗症の治療として以下のような選択肢があります。
塩化アルミニウム液(10%~20%)
皮膚角層内の汗管に塩化アルミニウムが沈着して閉塞させることにより汗を止めます。具体的には腋窩・手のひら・足の裏に20%~30%の塩化アルミニウム液を夜寝る前に外用し、効果が出るまで毎日外用することが薦められています。重症例には外用後に手袋やサランラップで密封療法を行います。顔には10%~20%塩化アルミニウム液を寝る前に外用、昼間に外用しても良いそうです。
塩化アルミニウム液の副作用としては、刺激皮膚炎(かぶれ)が多く、その場合は短時間外用で洗い流すなどが薦められています。現在のところでは処方できる塩化アルミニウム液は存在しないため、市販のものとなります。市販の塩化アルミニウムの中で代表的なものはデンマーク製の"パースピレックス”があり、15%のオリジナル、8%の敏感肌用、25%のストロング、などの種類があります。肌に合わせて濃度が選べることと、ロールオンタイプでどこにでも塗りやすいのが特徴です。
抗コリン薬の塗り薬
2020年にエクロックゲルが、2022年にシートタイプのラピフォートワイプ処方できるようになりました。汗管のコリン作動性の反応を阻害してエクリン汗腺の発汗を抑えます。抗コリン薬の飲み薬に比べ全身の副作用がほとんどなく使いやすいですが、毎日継続すること、目の中に入らないこと(眼圧上昇のため)が大切です。
抗コリン薬の飲み薬
外用しにくい顔の多汗症や掌蹠多汗に対して薦められますが、副作用として抗コリン作用による口の渇き・ドライアイなどがあり緑内障・前立腺肥大の方には使用できません。また高齢の方が長期間抗コリン薬を内服すると認知症の発症リスクが20%増加させることがわかっていて高齢者の方が抗コリン薬を3か月以上内服することは避けたほうがよいとされています。
マイクロ波
マイクロ派照射により、汗管が多く存在する真皮の深い部位が加熱され、水分の多い汗管が最も加熱されて変性することで発汗が抑制されます。効果は高いですが自費で高額です。
これから薄着になり多汗症の方が悩ましい時期になります。適切な解決策を指導できるように今後も情報を集めていきたいと思います。
先日、斎藤彩さん著の "母という呪縛 娘という牢獄” を一気に読みました。これは2018年に起きた事件のノンフィクションですが、医学部受験を母から強要された娘が9年浪人のあと看護学部に入学し看護師になり、その後も助産師試験を強要された末に母を殺してしまった事件です。最近の事件なのでニュースでも記憶に残っています。当時はこの残酷な殺人の様子を表面的にしかわかりませんでしたが、当初は否認していた殺人を最後に認めた心理がすこしわかり救いを感じることができました。この母はとても非現実的な強要の仕方で信じられませんが、この母の一部くらいは私にもあるのでは…と思いました。
息子のときより娘には、自分が人生の先輩という意識のもとで進路以外にもなにかと口出ししてしまいがち、でも自分の進んだ生き方しかわからないので狭い範囲の中での価値観で考えてしまいがちです。
具体的には、娘達には同性にも異性にも頼りすぎることなく、自信をもって"自分”を持っていてほしいと思い、そのための対人関係やうまく世の中生きていくためのアドバイスをついついしてしまいます。これも自分の価値観を押し付けているという意味では、この事件の母のほんの一部は持っているのかもしれない。
母と娘の関係は永遠の課題だと思いました…。
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